瀬川理事長のコメントが掲載されました

2019. 01. 11

 1月7日、毎日新聞のニュースサイトに、「ファクトチェックにおける新聞の役割」をテーマにした瀬川至朗理事長(早稲田大学政治学術院教授)のインタビュー記事が掲載されました。コメントの全文を毎日新聞社の了承を得て転載し、ご紹介します。
 

コメント全文

 僕らが新聞社に入った頃はまだ、メディアの発信する情報が市民に受け入れられていた。政府や自治体が発する情報にアクセスする方法が市民側になく、記者クラブに常駐する大手メディアからしか情報を知ることができない時代だったからだ。当時、記者の多くは傲慢だった。記事に対する苦情にも「それがどうした」という態度だった。今はネットを通じて誰もが発信でき、情報の出し口も分散している。そこが大きな違いだ。
 ジャーナリズムは、市民が自立的な社会を作っていくのに必要な情報を提供する役割がある。だが現状は「権力監視」をうたいながら自らが権力の一部となり、権力構造を支えている。それに対し、東日本大震災にまつわる報道で、受け手側の不信感が顕在化した。「政府の情報をただ流すのでなく、市民が知りたいことをきちんと報じて」と。
 記者は元来、政府とは距離を置いてきた。だが平成となり、政府寄りか、そうでないかでメディアの「二極化」が進んだ。政府は基本的には自分に都合のよい情報しか出さない。だからこそメディアによる監視が不可欠だが、政府批判を行うメディアは政府寄りの人から「反日」や「売国奴」などとレッテルを貼られ、それがネットで拡散する。記者の意識改革を進める一方で、市民のメディアリテラシーを高めることも重要だ。
 選挙でのファクトチェックが必要なのは、事実と異なる情報が有権者の判断を惑わせば、民主主義を揺るがすことにつながるからだ。それだけに選挙期間中に記事を出さなければ意味がない。昨秋の沖縄県知事選は日本全体に影響を及ぼす選挙だった。全国紙にもぜひ参加してもらいたかった。
 公職選挙法には公平中立な報道をしなさいとは書かれていない。事実と異なる報道はするなということだ。FIJが参加している国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)の原則には「フェアネス」という項目がある。これを「公平」と訳すと、量的に平等に扱うことが目的化されてしまうが、僕は「公正」と訳すのが正しいと思う。不確かな情報の真偽を明らかにすることに焦点を当てなければならない。
 ファクトチェックは新聞社が自らの報道を振り返るきっかけにもなる。従来は、安倍晋三首相の発言をそのまま書いていたが、今後は発言内容の真偽も検証して報じる。そうすればジャーナリズムの質も、市民からの信頼度も上がっていくのではないか。
 記者の専門性が必要となる検証もある。分野を極めた記者を育てることも、今後、新聞社が生き残るすべになる。
 
(転載元)
デジタル毎日 2019年1月7日記事
https://mainichi.jp/articles/20190107/k00/00m/040/018000c