政治家の主張をファクトチェックする10のステップ
ファクトチェックは様々な言説・情報を対象にして行われるものですが、中でも政治家の言説に関しては世界各国で活発に行われています。民主主義社会において、政治家が事実と異なる主張をして有権者の判断に影響を与えていないかどうか、検証することが重要だと考えられているからでしょう。日本でも近年、FIJのプロジェクトなどで選挙中のファクトチェックが行われるようになりました。
ここで紹介する記事で述べられたことの多くは、ファクトチェック全般にほぼそのまま当てはまります。つまり、政治家だけでなく、社会に影響力のある公人や有識者、メディアの報道、ネット上の情報をファクトチェックする際にも役立ちます。
ファクトチェックの手法を知りたい方、すでにファクトチェックを始めている方、ファクトチェックをしながら疑問や困難を感じている方は、ぜひ読んでみてください。あわせてIFCNのファクトチェック綱領もご覧になることをおすすめします。(2019/4/2)
政治家の主張をファクトチェックする10のステップ
HOW TO FACT-CHECK A POLITICIAN’S CLAIM IN 10 STEPS
ヨハネスブルグからラゴス、ワシントンからブエノスアイレスまで、政治家への信頼がここまで弱まったと感じられたことはめったにありません。反政治的な空気がはびこっているからでしょうか。それだけとは限りません。
多くの国で政治家は、他の職業と同じように、話をするときに正確なことと不正確なことを混ぜて言う傾向にあります。南アフリカやアルゼンチンでは、大統領や首相、町長、地方議員にも当てはまります。
もし事実とされることが不確実であり、何が事実で何が事実でないのかを知りたいとき、あなたはどのようにしたらよいのでしょうか。どのように政治家の主張についてファクトチェックをすればよいのでしょうか。
1 述べられていることが事実に関する言明なのかを見極めましょう
テレビやインターネットで見たことが間違っていると直感的に感じたときは、それが事実に関する言明か考えてください。
公開討論には意見とレトリックが含まれていますし、風刺もあります。意見に対するファクトチェックはできません。
風刺や正当な範囲での「言葉のあや」の使用に対して批判をすれば、あなたは冗談が通じないか、言葉を過剰に文字通りに受け取る人、あるいはその両方だと思われるでしょう。
ファクトチェックできるものかどうかはとても簡単に判別できます。
それらは雇用、医療、インフラなど目に見えるものや、数字や比較できるもの、例えば前政権より現政権の方が良くなったか悪くなったか、この国はあの国より良いか悪いか、などです。
またそれらは政治家が達成したことや、政治家から影響された現在の街や国の姿が含まれます。
約束や未来に対しての主張の判定は、通常ファクトチェックとは言えません。
2 その主張が重要かどうか判断しましょう
あなたがその主張の検証に時間を費やす前に、人々がその疑わしい主張を信じたときに、本当にあなたや社会全体に影響を与えるかどうか考えてみてください。
もし影響を与えるなら、その主張を検証し、結果を拡散しましょう。
もしそうでなければ、他のことに力を注ぎましょう。
3 証拠を探しましょう。もし政治家から反応がなければ、彼らの主張を支える証拠を見つけましょう
あなたが市長に情報の提供を求める市民の一人であっても、首相専任のジャーナリストであっても、その主張の起点となった人に証拠を尋ねましょう。
これをするときにあなたはジャーナリストである必要はありません。
多くの政治家はホームページやツイッターのアカウントを持っていますので、証拠について簡単に質問できます。
もし反応がない場合は自分で主張の裏付けとなる証拠を探しましょう。
たとえあなたが直感的に主張が正しくないと思ったときでも(むしろそのようなときこそ特に)そうするべきです。
4 証拠を見つけたらテストしましょう
政治家から証拠を得たら、それを疑いいくつかの標準的なテストをしてください。
ー いつ収集された情報ですか?思い出してください、よくあるトリックはデータ数値をよく見せるためにデータのはじめと終わりの日付を選択することです。俯瞰して長期的な傾向を確認しましょう。
ー それは誰がどのようにまとめたものですか?あなたはデータの出所について何を知っていますか?出所は信頼に値しますか?どのようにその情報は集められましたか?もしそれが調査の場合、誰が何人の人に調査したものですか?
ー データは包括的ですか?規模が小さく地域に特化した調査の場合、国全体の実態を示していない可能性があります。そしてその逆も起こり得ます。
ー その証拠は第三者によって検証されていますか?科学者は発見を検証するための査読をしています。その証拠は他の信頼できるところから発表されたり、確認されたりしていますか?
ー その証拠は本当に政治家が言っていることを示していますか?証拠をすべて読んでください。主張を支える表面的なものだけを見るのはやめましょう。
5 文脈について考えましょう
数値を冷静に見た上で、主張に何が抜けているのか考えてください。
イギリスの統計専門家は、昨年[訳注:2016年]の「ブレグジット」の国民投票での重要な主張は、数字が文脈からずれていたため、誤解を招いた可能性があった、と言っています。
敵対する相手の任期中に経済が停滞したと主張する政治家は、もしかしたらその敵対する相手が以前から続く不況を引き継いで就任したということを隠し、読者をミスリードしているのかもしれません。
6 自分がしていない功績を主張していませんか
他のよくあるトリックは、他の政治家の政策の結果を自分の功績であると主張することです。
もし政治家が就任してから最初の数週間の経済成長を自分の手柄としたなら、それは情報の受け手に誤解を与える可能性があります。
同様に、犯罪件数の増加について批判をするときに、例えば人口増加について言及しなければ、誤解を与える可能性があります。
7 その主張を検証するための信頼できる情報源を探しましょう
国によっては、ファクトチェックの一番難しい部分は主張を検証するための信頼できる情報源を見つけることです。
ですから、いくつかのファクトチェック団体、例えばイギリスのFull Factは信頼できる情報源の基準を示しています。
これはAfrica Checkのものです。
検証する主張の種類にもよりますが、一番良いのは政府の記録や公式の統計、会社の記録、科学的研究、シンクタンクのレポートなどでしょう。
信頼できる情報源を見分ける簡単な基準はありませんが、ファクトチェッカーのための基本的なルールはあります。
一つの情報源に頼らないこと、情報源の手法や財源を確認すること、疑い深くなっても、ひねくれないこと。
一つの腐ったリンゴがいつも樽全体のリンゴを悪くするとはかぎらないのです。
8 なぜその主張を信じる人がいるのかを理解しましょう
あなたがその主張についてのファクトチェック記事を書きたいときは、いくつかのルールを覚えておいてください。
重箱の隅を突かないこと、数値がわずかにずれている場合には「ほぼ正しい」に分類することです。
誰も重箱の隅を突く人を尊敬しませんし、完璧な人などいません。
主張の間違いをその人が自覚しているという証拠をあなたが持っていないのであれば、その人のことを嘘つきと言うのはやめましょう。
この主張を信じる人がいるかもしれない理由を、理解しようと努めてください。
相手を愚かだとなじっても、多くの議論に勝つことはできません。
ですから、なぜその主張を信じる人がいるのかを考え、そのことを考慮に入れるのです。
9 批判する人が現れることを受け入れましょう
あなたの記事を批判する人の存在を受け入れることは大切なことです。
多くの研究は、どんな政治信条を持っている人でも、自分が重要だと信じていることと相反する証拠に抵抗すること、そして慎重な議論や関連する証拠がいくらあっても彼らの信念を変えられないことがある、ということを示しています。
論争するのをやめて前に進みましょう。
10 間違いを正しましょう
あなたの記事に対する批判が、時には当を得ることもあるということを受け入れましょう。
だれも間違いをすることから免れることはなく、それはあなたも同じなのです。
間違いをオープンに訂正すれば、信頼を高めることができます。
間違いを隠したり否定したりすると、あなたは信頼を失うことになるでしょう。
(2019年4月2日掲載)
(元記事の出所)HOW TO FACT-CHECK A POLITICIAN’S CLAIM IN 10 STEPS
(注)この記事は、FIJがIFCNの許諾を得て翻訳したものです。読みやすくするため、原文にはない改行をしています。他サイト等への転載を禁じます。翻訳の誤りなどはこちらからお問い合わせください。
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