[沖縄知事選] ファクトチェックへの評論を紹介します

2018. 10. 13

 Japan In-depthに掲載されたファクトチェック記事「候補者討論会(3) “辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か?」について、取材協力者である西恭之・静岡県立大学特任助教より評論が寄せられましたので、ご紹介します。なお、この評論に対する楊井人文事務局長の応答記事も掲載しております。あわせてご覧いただければ幸いです。
 

[評論] 検証すべきは「辺野古は機能強化」の真偽 ファクトチェックの反省点 (西恭之・静岡県立大学特任助教)

 
 政治家や有識者の発言、メディアの報道、一般人の発信する情報などの真偽検証を推進している団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」は、先月の沖縄県知事選挙の期間中、メディア・市民と協力し、10本を超える検証記事を発表した。
 
 筆者(西)は、FIJの楊井人文事務局長の依頼に応じて、Japan In-depthに掲載された検証記事「候補者討論会ファクトチェックその3 ”辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か?」にコメントを寄せた。この記事は、米海兵隊普天間飛行場の辺野古への移設に関する玉城デニー候補(当選)の発言を検証したものだが、筆者のコメントにも、その他の部分にも反省すべき点がある。
 
 ファクトチェックの目的が民主主義を鍛えることであれば、政治家による個別の事実言明の真偽検証は、それ自体が目的ではない。どのような事実言明が誤っていれば主張の根幹が崩れるのかという、科学哲学でいう反証主義的な疑問をもつことが求められる。
 
 筆者は玉城候補の次の発言にコメントを求められた。

「辺野古の例えば新基地建設については普天間にはない、弾薬搭載エリアであるとか、あるいは強襲揚陸艦が接岸できる護岸であるとか、明らかに機能強化であることは間違いありません。しかも一本の滑走路は二本に増え、オスプレイを将来100機そこに配備することは元防衛大臣の著書の中でも明らかなんですね」

 楊井氏によると、元防衛大臣の著書とは、森本敏氏が防衛相就任前の2010年7月に出版した『普天間の謎』で、玉城候補は次の箇所を念頭に言及したという。

「海兵隊は、CH-46、CH-53(既に生産を中止)の後継機としてオスプレイを三六〇機装備することになっており、海軍(四八機)および空軍(五〇機)を含め、その一部が、今後、沖縄に配備されることになるであろう。配備時期は未定であるが、恐らく、二〇一二年までに最初の航空機が沖縄に展開してくる可能性がある。普天間基地の代替施設には、有事の事態を想定すれば一〇〇機程度のオスプレイを収容できる面積がなければならず、滑走路の長さだけで代替施設を決めるわけにはいかないのである」

 森本氏はここで、普天間飛行場代替施設には有事に100機程度のオスプレイを収容できる面積が必要だと主張しているものの、辺野古がその条件を満たすとは明言していない。玉城候補の発言は、辺野古がその条件を満たしていなければ成り立たないので、楊井氏は筆者にその点の確認を求めた。
 
 筆者は、「普天間でオスプレイに割り当てられている駐機場のスペースから計算すると、辺野古の代替施設の駐機場にオスプレイのみ収容しても50機程度が限度。しかも、オスプレイ以外の航空機も配備しなければならず、有事には岩国に移転した空中給油・輸送機などが駐機場を使うことも考えれば、オスプレイ100機の配備は物理的に不可能だ」とコメントした。
 
 しかし、「オスプレイを将来100機そこに配備する」という部分が誤っていれば、玉城候補は、辺野古が有事に海兵隊が第1海兵航空団の指揮下に300機程度を展開する航空基地としては役に立たないことを理解していないので、「明らかに機能強化」という主張の根幹が崩れる。筆者はこの論理を展開しなかった。
 
 『NEWSを疑え!』でたびたび指摘しているとおり、辺野古の短い滑走路には米空軍の輸送機も、兵員を輸送するチャーター機も、海空軍と海兵隊の戦闘機も離着陸できないのだから、基地機能の大幅な低下は避けられない。なお、海兵隊の空中給油・輸送機KC-130Jにとって、辺野古の滑走路の長さは、最大重量で離陸する場合の最低限であり、近隣の飛行場を使えなくなった緊急時にしか使わないと考えられる。
 
 玉城候補が言及したと思われる『普天間の謎』は、海兵隊が貨物と隊員の輸送に空軍輸送機やチャーター機も利用することに触れておらず、これらの航空機を運用できる普天間から、運用できない辺野古へ移設すると基地機能が低下することに触れていない。出版後に森本氏が民主党政権で防衛大臣を務めたこともあって、同書は玉城候補が手に取りやすかったかもしれないが、玉城候補は「オスプレイを将来100機そこに配備すること」が明記されていると誤認する一方で、輸送機能の低下に触れていないことに気づかなかったようにみえる。
 
 なお、『普天間の謎』から先に引用した箇所では、オスプレイがCH-53の後継機とされているが、大型輸送ヘリコプターCH-53Eの後継機はオスプレイではなく、CH-53Kであり、同書の出版時点で開発が進んでいた。
 
 今回のファクトチェック記事は、基地機能に関する玉城候補の発言のうち、弾薬搭載エリアが建設され(正確)、強襲揚陸艦が接岸できる護岸も建設される(現時点で断定できない)という部分も検証している(普天間に弾薬搭載エリアがないという部分は検証していないが、実際に正確である)。それゆえ、オスプレイの機数に関する部分が誤りでも、この発言全体は「一部誤り」と評価している。
 
 さらに、辺野古の埋立承認時に想定されていなかった軟弱地盤が見つかったという発言(正確)、米軍の在外基地・施設が2016-17年に70か所削減されているという発言(ほぼ正確、実際は2015-17年)も、基地機能に関する発言全体と同じ重みで評価している。
 
 しかし、記事の構成も題名も、ファクトチェックがもっとも必要なのは、「”辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か?」ではなく、「”辺野古移転で基地機能は強化”は事実か?」としなければならないことを見逃していたと言わざるを得ない。
 
 結論をいえば、基地機能が強化されるというのは誤りである。
 
 今回を教訓に、ファクトチェックが目指すべき水準を向上させていかなければならない。
 
(参考文献)
Marine Corps Installations Command Pacific, Final Environmental Review for Basing MV-22 Aircraft at MCAS Futenma and Operating in Japan, 2012年4月.(太平洋海兵隊基地統括司令部『MV-22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー最終版』)
沖縄防衛局『平成28年度 普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書』平成29年9月
(写真)
米空軍のC-5輸送機で普天間飛行場へ運ばれた、海兵隊の大型輸送ヘリCH-53E(2013年、海兵隊撮影)


※本稿は、『NEWSを疑え!』第715号(2018年10月4日号)所収の論考「沖縄県知事選ファクトチェックの反省点」を改題、本文も加筆修正の上、掲載させていただきました。