[沖縄知事選] 西氏の評論への応答を掲載しました

2018. 10. 13

 Japan In-depthに掲載されたファクトチェック記事「候補者討論会(3) “辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か?」について、取材協力者である西恭之・静岡県立大学特任助教より評論が寄せられたことを受け、楊井人文事務局長による応答記事を掲載します。当初のファクトチェック記事、西氏の評論とあわせてご覧いただければ幸いです。
 


◉ 候補者討論会ファクトチェックその3 “辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か? (Japan In-depth) [FIJのサマリー記事
◉ [評論] 検証すべきは「辺野古は機能強化」の真偽 ファクトチェックの反省点 (西恭之・静岡県立大学特任助教)


 

[応答]西氏の評論について (楊井人文・FIJ事務局長)

 西恭之氏にはファクトチェックの取材に協力いただいた上、記事に対して重要な指摘をいただき、感謝している。ポイントは「辺野古(に建設予定の米軍施設)は普天間(飛行場)を機能強化したものだ」という玉城デニー氏の「主張」こそがファクトチェックの主たる対象であるべきではなかったか、という点だと理解する。
 
 たしかに、「普天間飛行場の主たる機能が航空機による輸送機能である」との前提に立てば、西氏が指摘されるとおり、「辺野古の滑走路が短くなる」(それゆえ、従来の航空機が離発着できなくなり、輸送機能が大幅に低下する)という点は、「機能強化」という主張の根幹を揺るがす重要な事実と位置付けられよう。
 
 私が担当したファクトチェック記事では、滑走路が一本から二本に増える点について「滑走路の長さが短くなる」と一言触れただけで、それが意味する帰結には一切言及しておらず、検証として不十分だった。その批判は甘んじて受け入れたいと思う。
 
 ただ、私は「辺野古移転で基地機能は強化される」という発言自体を、ファクトチェックすべき「事実言明」(factual statement)として捉えることには、やや躊躇を覚えるのである。というのも、「基地機能が強化される」という言明は、一義的に事実か否かを判定できるものではなく、「基地機能」という概念についての評価を含んだ、一つの見解の表明(主張/opinion)であると思われるからだ。
 
 しかも、辺野古の施設については、普天間の基地機能を強化した「新基地」と捉える移設反対派の「主張」と、基地機能の移転にすぎないとする移設推進派の「主張」がぶつかりあっている。
 
 「ファクトチェックは客観的に検証可能な事実言明の真偽を判断することに、その役割を限定した方がよい」という私の立場からすれば、検証対象は「基地機能が強化される」という意見・主張そのものではなく、それが前提とする事実言明とすべきことになる。すなわち、今回の玉城氏の発言でいえば、①弾薬搭載エリアの新設、②強襲揚陸艦が接岸できる護岸の新設、③一本の滑走路を二本に増設、④オスプレイ100機を配備、という事実言明が検証対象となる。検証の結果、このうち明確に事実といえるのは①のみであった。(それゆえ、①〜④の事実言明を含む発言全体を1つと捉えて評価した場合、全部誤りではなく部分的誤りという意味で「一部誤り」(partly false)という判定となった。)
 
 これにより、「辺野古移設で基地機能が強化される」という主張の妥当性が失われると考えるかどうかは、評価に属する事柄であって、「ファクトチェック」記事で言及すべき範ちゅうを超えると考える。別途「解説」記事で言及することはあってよいかもしれない。その場合、この言説でいわれるところの「基地機能」の意味についても、専門的知見を踏まえて「解説」する必要があるが、私の力量を超えるだろう。
 
 なお、西氏からは、「軟弱地盤が見つかった」という発言や「アメリカの国外にある米軍基地施設数が削減された」といった発言なども、「基地機能に関する発言全体と同じ重みで評価している」との指摘も受けたので、補足させていただきたい。
 
 今回は、討論会において確認できた事実言明のうち、検証対象を1つに絞らず、争点に関わるものを8つほどピックアップし、テーマごとに分類して3本の記事にまとめたものである。3本目で取り上げたのは「辺野古移設」に関係する3つの発言で、並列的に、つまり同じ重みで扱ったというのはそのとおりである。ただ、見出しでオスプレイ配備に関する発言をとったのは、そこに事実誤認が見出されたことが理由である。
 
【追記】
 ファクトチェック記事掲載後、元防衛大臣の森本敏氏への質問に対する回答が届いたが、記事に反映できなかったため、ここでその内容を紹介しておきたい。森本氏に対しては①辺野古の基地には有事にオスプレイ100機の収容が可能か、②米軍の計画では、平時は何機配備されることになっているのか、について尋ねていた。
 
 森本氏は、FAXによる回答の中で、①の点について「辺野古施設にはオスプレイ以外の各種のヘリ等が展開できるようになっており、それを全てオスプレイにした場合、最大何機収容できるかはわかりません」と回答した。また、森本氏は「有事の際に、他からどのような種類の航空機・ヘリなどが、どれくらい展開してくるかは、事態に応じた米軍の計画によるものですから、全く分かりませんが、事態の状況変化によっては多数の航空機が展開してくることも想定しているものと推察します」「辺野古施設の滑走路は戦闘機などが離着陸できる十分な長さがないので、いずれにしてもオスプレイや各種のヘリ等になると思います」との見解も示した。
 
 ②の点について、森本氏は「辺野古代替施設が完成したあと、現在、普天間飛行場に配備されているオスプレイ(24機)ならびに、CH-53、AH-1、UH-1ヘリ等が展開してくることが予想されます。現時点で、それ以外から辺野古施設に新たな展開が予定されているオスプレイはないと承知しています」と回答した。
 
 以上により、著書『普天間の謎』でもそう述べてはいなかったように、森本氏は有事であれ平時であれ「辺野古にオスプレイ100機が配備される」というような情報や認識をもっていないことが、改めて確認されたといえる。(了)